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彼女がその名を知らない鳥たち/沼田 まほかる【レビュー】

★★★★★

8年前に別れた黒崎を忘れられない33歳の十和子は、寂しさから15歳年上のダメ男・陣冶(じんじ)と同棲している。

この陣冶の下品で貧相な様子の描写は容赦がありません。

ストーカーまがいの執拗な電話攻撃、音をたてて食べ物を咀嚼し食事の途中で差し歯を調節、あまりにもだらしなくて読んでいて虫唾が走りますが、読み進むにつれて段々この陣冶の愛情の深さに感動すら覚えて来ます。

そしてどんどん話にのめり込んで行き途中で本を閉じる事が出来なくなりました。

心地よい文章では決してありませんが、文章の奥底に人間の悲しみや切なさ、温かさが感じられ段々心地良くなって来てあんなに嫌な男だった陣冶がラストに至るまでには愛おしくて堪らなくなります。

そしてラストシーンには胸が苦しくなってしまい悲しさと愛しさで何とも言えない気持ちになってしまう。
こんな深い愛情を与えられた十和子に嫉妬さえ感じてしまいました。

読み応えのある作品でした。

沼田さんの本は癖になります。




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