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悲素/帚木 蓬生【レビュー】

★★★★

1998年7月25日、和歌山県和歌山市の園部地区で行われた夏祭りの毒カレー事件を元にした限りなく実話に近い小説です。

タイトルの悲素(ひそ)は砒素をもじった物
541ページもある長編です。

現役医師である著者の作品であるだけに、文中に出て来る専門用語はかなり難しく戸惑いました。

事件発生当初は食中毒、青酸カリの混入などと報道されていましたが地元刑事の要請を受け、和歌山へと向かった医師
医師と刑事達の手によって少しづつ事件は真実へと近づいていきます。

登場人物の名前こそ実名ではありませんが「真由美」の名前が出るたびに、ニュース映像で流れた取材陣にホースで水を掛ける一見どこにでもいそうで、けれどふてぶてしい表情の林眞須美の顔が何度も過りました。

楽しいはずであった夏祭りが犯人の悪意ある行動の結果、何の罪もない4名の方が亡くなり、多くの人達が病院に搬送、治療を受け、又後遺症に苦しむ人々を作りました。

毒入りカレー事件以前の保険金詐欺、実の両親にまで多額の保険を掛ける犯人
お金と毒の虜になり人を人とも思わぬ無差別的犯行には怒りを覚えます。

この小説を通して知った事実、当初の計画通りに行かずとも強引に犯行に及ぶ犯人自らの毒へ対する中毒性の様な物も感じ、薄ら寒くなると同時に犯人への更なる許しがたい気持ちが増しました。

フィクション小説と言う形式ではありますが、かなり事実に基づいて丁寧に描かれた力作です。




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